ポーカーフェイスを脱ぎ捨てて

 

ポーカーフェイスを脱ぎ捨てて

 



円堂には好きな人がいる。クラスは違うけれど同学年で、髪が長くて綺麗。勉強も出来て、努力家。
自分にも好きな人がいる。明るくて、びっくりするくらいに真っ直ぐな人。けれど、円堂からその話を聞き、「風丸は?」と問われた時、いないと咄嗟に答えてしまった。何故ならその相手は目の前にいるのだから。
言える訳がない、と隠し続けて数ヶ月。何故か円堂の恋愛相談をされるようになり、良い顔をしている反面その度に苦しくなっていた。毎回必ず問われる事に「いない」と返事をし、隠し続ける。俺しか知らない事を共有出来て、好きな子には見せないであろう顔を俺の前ではし、頼られて嬉しい分、自分がどれだけ円堂を想っているのかも思い知らされる。耳を塞ぎたいような、けれど他の人とその話をされるのは嫌で、言われている本人は知らず、自分だけが知っている円堂に優越感すらある。けれど、自分のこの想いが叶わない事を毎回突きつけられるというのは想像以上に辛いもので。最初は相手を羨ましく思い、そして円堂の為にも身を引き応援しようとしたが出来る筈もなく、好きという気持ちだけが膨らんでいて正直そろそろ限界だった。
円堂の好きな人の名前は知らない。何十回も相談を受けているというのに名前だけは恥ずかしいからと教えてくれないのだ。彼の言う特徴を聞き、どの子だろうかと密かに探した事もあったが、わかった所でどうなる訳ではない。ただ自分が傷つくだけなのだとすぐに探す事を止めた。

今日も、そう。
部活が終わり、帰り道。二人で帰っていると円堂からその人の話をされる。
どうしても視界に入れたくて、その人を探してしまうのだと。今日はそれで体育の時間怒られたらしい。

「俺さあ、ほんと最近ソイツ好き過ぎて。どうしよ」
「どうしよって…もう本人に直接言えばいいじゃないか」

俺に惚気るなよ、と小突くと「だってお前にしかこんな事言えねーもん」と笑う円堂にまた複雑な感情が込み上げてくる。
嬉しいけど、切ない、苦しい。

「風丸は?」
「いないよ」
「気になるやつも?」
「…だからいないって」

ふうんと曖昧に頷かれると少しの間が出来た。何か考えているのか円堂が黙るのでそのまま静かに歩き続ける。もし、これで自分には好きな人がいると言い、それはお前だと言ったらどうなるのだろうか。軽蔑されるだろうか。自分の気持ちはすっきりするかもしれないけど、この関係を崩してしまう程の価値は?そんな事ばかり考えてしまう。自分の悪い癖だ。勝手に落ち込んで暗くなった顔を円堂の前でしたくはないと、考えを止め話を変えようと今日の出来事を振り返っていると突然円堂が立ち止まった。

「なあ風丸」
「ん?」
「まだわかんねえの?」

「何が?」と答える瞬間円堂の顔を見て、何とも言えないような感情が自分の中でいっぱいになった。
それは、期待感だったり、違った時の恐怖だったり、恥ずかしさだったり。だってあんなに顔を真っ赤にして、苦しそうな顔で自分を見てくるから。その言葉の意味は、つまり

「っ…だってお前の好きなやつって女子だろ」
「そんな事一言も言ってねえよ」

立ち止まったいた円堂が歩き出し、こちらへと近付いてくる。その度に今までの相談内容が脳裏に浮かんできて、自分の体温が上昇するのがわかった。頻繁に繰り返されていたあのやり取りは別の人ではなく自分の惚気を聞かされていただなんて。そんな、

「風丸は?好きなやついないの?」
「……ずるいよ円堂…」

思わずニヤケてしまう口を腕で隠しながら円堂を見る。何故、今まで気付かなかったんだろう。怖がらずに好きな人がいるのだと言えばもっと違ってたのではないか。あんな苦しい思いも、相手を妬むような馬鹿な気持ちも持たなかっただろうに。

「いるよ。すぐ傍に」

 

 

end.