指先であやす憂慮

 

指先であやす憂慮

 



源田は一言で言うと、母さんだ。

人数がうちの部はとにかく多いのに、何故かマネージャーはいない。マネージャー希望の子はたくさんいる。学園が誇っている帝国サッカー部が不人気な訳がない。けれど、マネージャーを入れたところで黄色い声(俺が思うに主に鬼道さんと源田ともしかしたら成神も)が練習の邪魔になるだけだし、いなければいないで大した支障はないという元帥の言葉がまあ理由だろう。
まあそんなうちの部でマネージャー的な存在は面倒見が良くて、気が利く源田が必然的にマネージャーの役目を果たしていた。GKということもあり普段からメンバーの動きを見ている源田は鬼道さんと同じくらいにメンバーの解析をしてくれるし、後輩にもよくなつかれている。

ほら、母さん。
だけどそれが、最近面白くない。
今だって後輩とか、練習も終わったからか出待ちしてた女子に囲まれて話してる。
鬼道さんは練習が終われば生徒会の仕事があったりで直ぐに帰ってしまうし、成神も彼女がいるのかなんなのか、いつもそそくさ帰ってしまう。
結果、基本的には嫌と言わない源田がいつも捕まってしまうのだ。
スポーツドリンクを飲みながらその様子を見てた訳だが、一向に退く気配はなく。そこを通らないと更衣室には戻れないし、いつもはこの取り巻きみたいのが来る前に戻ってるから問題はなかったのだが今日は運悪く自分が後になってしまったようで。けれどもその真ん中をわざわざ入って戻るのもなんかこう、引っ掛かるものがあり、とりあえずその様子をベンチに座って眺める事にした。

「――源田先輩、俺最近シュートが上手く決まらないんですけど、どうしたらいいですかね?」
「ああ、それは――」
「源田くん!今日の――」

疲れてるはずなのに、律儀に偉いなあとか、あの女そういえば毎日来てるけど源田狙いなのかとか思いながら源田を見た。俺も含めてうちのチーム全員がそうだろうけど、常に全力で体力も神経も使っているだけあってやっぱり顔が疲れてる。ユニフォームだって泥だらけだし、汗で少し髪だって下がってる。あ、今アイツ少し困った顔した。

やっぱり、思う。
面白くない。
源田があんなにチヤホヤされてるのも、少しだけ下がった髪だって、アイツが困っている顔を他に見せてるのも、女子が源田に触るのも。源田に困った顔をさせるのは俺だけで十分だし、源田に触っていいのだって俺だけ、

「源田先輩って彼女とか――「源田、いつまで話してんだよ」

よく考えてみれば俺のキャラなんて前からこんなんだし、後輩はともかく女子にまで気を使ってやる必要なんてなかったじゃないか。
立ち上がって囲まれている中心人物に向かい言葉を投げ、真ん中を掻き分けスポーツドリンクを持っていない手で源田の手を引き更衣室へと続く道を歩く。後ろから悪態つくような声が聞こえたような気もしたけどそんなのどうでもよかった。何とでも言ってればいい。

「ありがとう佐久間、助かった」
「嫌なら嫌って言えよバカ」

「慕ってくる後輩を邪険には出来ないだろ」

「部室戻ってから話せばいいじゃねーか」

「戻ろうとすると何故かああなるんだ。俺はまあ構わないんだが」

「だから、俺が嫌なんだって!お前今日女子に触られてたし。面白くないん…だ、よ……?」

かっとなって思わず言ったもの自分が言ってしまった事の重大さに気付いて言葉が疑問系になってしまった。何言ってんの俺。自分でも顔が赤くなるのがわかって立ち止まってしまう。恐る恐る後ろを向くと面食らったような顔をしてると思ったら急に笑顔になるものだからそれはもう、恥ずかしくて。握っていた手を離そうとするとがっちりと握り返され逃げ道はなく、引き寄せられたと思ったら唇に何かが当たっていて、

「ありがとうな、佐久間」

離れたと思ったら満面の笑みを浮かべた源田の顔があって。なんだよもう、源田のくせに!面白くない。けど、俺に向けられた笑顔がちょっと嬉しいとか思ったのは秘密にしておこう。

 

 

 

end.