メイビー・アイ・ラブユー

 

メイビー・アイ・ラブユー

 



 雨が好きだ。
 降り始めた時にするアスファルトや土の匂いや空気、降り続く雨の心地良い音、雨の日限定のサービスがあったり、湿気が酷かったり寒くなったりするのは好きじゃないけど、なんといっても雨の日独特の雰囲気が好きなのだ。気怠いような、けれども物思いに耽ってしまうような、あのなんとも言えない雰囲気が。

 放課後。誰もいなくなった教室で一人、空を眺めていた。今日は部活がグラウンドのメンテナンスの関係で久々に休みでする事も特になくただ、窓際の席でぼーっと空を眺めている。
 そういえば、佐久間は今何をしているんだろうか。気付けば彼はいつもただ一人の事を考えている。

 幼い頃からの佐久間との付き合いは、いつの間にか友達から恋人へと変わっていて。不思議な事に源田は佐久間とサッカーにしか目がいかないのだ。常に佐久間とは行動を共にしているし、佐久間が鬼道に懐いているせいもあって周りは源田と佐久間の関係には気付かない。中学2年生の恋愛なんてまだまだ青いもので、更には同性愛という事もあり手を繋ぐ訳でもなければキスすらしていない。ただ、想いをお互い伝え合い友達というカテゴリから恋人へと変わっただけ。源田も佐久間も性に関してだったり付き合うという事に対して興味はあるのだが中々その一歩がお互い踏み出せないといったところだろうか。どうしていいのかわからないのだ。今はただ、一緒に居て、一緒に悩み、笑えればそれで満足なんだろう。けれども最近、少しだけ欲が出てきたと源田は思った。単なる性に対する好奇心や興味でなく、純粋に佐久間に触れたいと思う。佐久間は嫌がるだろうか。

「げんだぁー」

 勢い良く教室のドアが開き、源田が今、考えていた本人が現れた。佐久間は一人きりらしく、開け放ったドアを閉め、源田の前の席の椅子を乱暴に引き、座った。

「帰ってたのかと思った」
「何でいつもお前と帰ってんのに今日だけ一人で帰らないといけないんだよ」

 口先を尖らせ言う佐久間が可愛くて、つい頭を撫でると、佐久間は嬉しそうな、けれども探されなかった事に怒っているのか複雑な表情を見せた。

「こんなとこで何してたんだお前」

 不思議そうに訪ねられ、源田は回答に少し困ってしまった。何をしていた訳ではなく、ただ空を見て、雨音を聞いて、佐久間の事を考えて…

「雨が好きなんだ」
「雨?」

 見当違いの答えを言われたのか、きょとんとした顔で佐久間は源田真意を確かめるように顔を覗いた。だが、源田は真面目に答えたようで、「ああ、」と深く頷くだけ。

「ふうん…。まあ、俺も雨は好きだけど。匂いとか、音とか。さっき廊下歩きながらそれ思ってた。あ、あと源田のこと」
「俺の事?」

今度は源田がきょとんと佐久間を見た。探してたんだから当たり前だろ、と言われ思わず笑ってしまった。

「?なんだよ」
「いや、考えてる事全く同じで」

まるで以心伝心だ、と付け足すとイシンデンシン…と佐久間が繰り返した。源田はそれが嬉しく、笑みを浮かべて佐久間を見た。

「じゃあさ、俺が今何考えてるかわかる?」

微笑んでいる源田とは裏腹にじっと見つめる佐久間に、どきっと胸が高鳴る。褐色の肌とは似合わないように光る髪。射止められるような力強い片眼。その全てが恋しくて。机に置かれている佐久間の手に触れ、蹴られるであろう事も予想しつつ、だけども淡い期待を胸に佐久間の質問に答えた。

 

「キスしたい」

 

 

 

end.