poco a poco

 

poco a poco

 



円堂が好きなんだと気付いたのはいつからだったか。
小さい頃から円堂とは友達で、円堂の事は誰より知っていると思う。
GKの円堂を試合中に見ることは出来ないけど、後ろにいてくれるだけで頑張ろうと思えるし、気付けばいつも円堂を目で追っていて、近くで話せば嬉しさと苦しさでいつも切なくなる。

「風丸ー」

練習が終わり、部屋に戻ろうとしているところで名前を呼ばれ、その声にどきっとする。振り返ると声の持ち主は今にも泣きそうな顔をして自分を見ていた。

「どうしたんだ?」

慌てて駆け寄ると半泣き状態で「勉強を教えてほしい」と訴えてきた。
FFIのために合宿中の俺たちは久遠監督に練習後の練習を禁止され、勉学に励むようにとの事で各自自習をしているのだが、いざ教科書を開いてみても全く解らず早くも数日経ってしまい焦っているという事らしい。

「お前またかよ…」
「何度読んでも全然わかんねーんだよ」

円堂が俺に泣きついてくるのはそう珍しい事ではないのだが、円堂は本当に焦っているのだろう。この通り!と言わんばかりに手を合わせ頭を下げてきてきた。

「…シャワー浴びて晩飯食ったら部屋行って教えてやるよ」
「まじで!?ありがとう風丸!!」

さっきまで泣きそうな顔をしていたのに今度は見るからに明るくなった円堂は俺の手を掴みぶんぶんと振りながら感謝の言葉を何度も述べそして何か思い出したのか急いで部屋へと戻って行った。
あまり見る機会のない円堂の後ろ姿を眺めながら、自分も支度をしなくてはと動き出す事にする。

シャワーを終え、食事を済ませた後一旦自室へと戻り必要なノートやら教科書を揃えた。円堂の部屋には何度も行ったり泊まった事もあるのに、少しだけ緊張してしまう自分が何とも情けないというか、女々しいとゆうか。はあ、と溜息をひとつ吐き、顔を叩いて部屋を出て円堂の部屋へと向かう。皆で集まっているのか、どこかの部屋から笑い声が聞こえて少し和まされながら部屋の前に着き、ノックをして入った。

「えんどー」
「おう、風丸。待ってたぞ!」

ぽんぽん、と円堂が笑顔で隣の場所を叩いて示す。その仕草にどきっとしつつも一応、本当に勉強する気はあるみたいで、既に教科書とノートを広げ格闘している円堂の隣に座り教科書とノートを覗いた。

「数学?あー連立方程式か」
「さっぱりわかんねぇ…なんなんだよこの式」
「あ、これはな…」

問題の解き方を教え終り、自分の宿題を出し、取りかかるのだけど、うーん、とか唸りながら問題を解いている円堂を思わず盗み見てしまう。そういえば、円堂の顔をこんなに近くで見る事なんて久々だな、なんて思いながら癖っ毛の髪、少し短めの睫、日本人特有の鼻、ぷっくりとした頬、乾燥気味の唇、だけどどうしてあんなにかっこいいんだろう。それから、ゴツゴツした大きい手を見る。身長は俺とそんなに変わらないのに、手だけは円堂の方が断然でかいし、びっくりするくらいに指先の皮膚は堅いし、爪はこれでもかってくらいに深く切っていて、見ているこっちが痛そうで。いつの間にか円堂の体系はがっちりしてきたと思うし、どんどんキャプテンらしくなって、皆をまとめていて、仲間が増えて、皆の円堂になっていく。少し寂しいような、だけどその成長を側で見ていられる事が嬉しかったり、誇らしかったり。一時は円堂が遠くに行ってしまった気がして円堂から逃げてしまったけれど、それでもやっぱり、円堂の側に居たくて。

 

円堂が、好き。

触りたい、抱きしめてもらいたい、キスしたい。

 

 

「風丸?」
「えっ」

名前を呼ばれ、はっとする。円堂と目が合って、思わず派手に目を背けてしまった。俺は何て事考えてんだ。

「どうした?俺の顔になんか付いてるのか?」
「い、いやっ。何でもない」

怪しい、と俺の顔を見つめてくる円堂の顔が目を背けてしまった所為もあり見ることが出来ず、少しずつ後ろに下がるしかないのだけど、それ以上に顔が熱い。苦しい。

「風丸」

下がったのが原因だったのか、顔が赤い事がバレてしまったのか、名前を呼ばれ目線を元に戻すと円堂の顔が近くにあって、近いと思った瞬間唇に何かが当たった

「へ…?」
「ありがとな」

にい、と笑ってノートと睨み合う作業に映る円堂に付いていけずその場に固まってしまう。だって、そんな、今のって。口をパクパクさせながら円堂を見ると、少しだけ頬が赤く染まっているのに気付いて。

苦しかったのは、自分だけじゃなかったのかもしれないなんて、思ってもいいんだろうか。

 

 

 

end.